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お話  ·  物語

フィルター
ナレーター昔々、一人の男が死にました。男には、物語を本当にする力があったので、悲劇が現実になることを怖れた人々によって、腕を切り落とされてしまいます。男が死ぬと、人々はほっと胸を撫で下ろしました。けれども、腕を切り落とされた時、男は自らの血で、ひとつの物語を書いていました。それは、死んでも物語を紡ぎ続ける、男自身の物語でした。
ナレーター昔々、決して叶わぬ、悲しい恋がありました。でも、それだけで物語は生まれません。恋の物語を紡ぐべき男は、もう世界には、いなくなってしまいました。恋はいつまでも悲しいままで、物語は生きています。紡ぎ手のいなくなった物語は、その結末を求めて、彷徨っています。
ナレーター昔々、一人の男が死にました。男が紡いだお話は、全て本当のことになったので。王様も、貴族も、金持ちたちも、男にお話を書いてもらいに訪れました。ところが、望みが叶うと今度は、男の力を怖れ、忌み嫌うようになり、男が死ぬと、人々は、災いが去ったと喜びました。誰も、死んだ男が、嘲り笑う声には気づかないままでした。
ナレーター昔々、一人の男が死にました。男は、死んでもなお物語を紡ごうとしましたが、物語はなかなか動き出そうとしません。男は業を煮やして、一羽のあひるを物語に呼び込みました。小さなあひるは王子のために頑張り、やがてはその身の程を超え、王子を愛するのでした。ですが、たかが、あひる…。やがては光となって消えてゆくさだめ。そう、それが物語の決めた、涙の結末…。
ドロッセルマイヤーななんと穏やかな日々、なんと平和な日々。だがそんなものは、いつまでも続かないよ。それがお話のいいところ。
松前緒花そう、本当に物語でした。綺麗な女の子が、私に手を差し出して、そして…「死ね」といったのです。

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